呉服屋
えぇ、どうも。オイラ、武甕亭てんぐと申します。
名前が変わったからって、襲名したぁだの、二ツ目になったぁだの言って、そこの町内を闊歩したかったんですがねぇ、オイラまだまだ前座なもんでして。それが叶わないんでぇい。どういことかい?え?おかしいねぇ。
ま、前に比べてちぃったぁ、身の丈にあった名前になった、て所で一席お付き合いしてくだすって頂けると有難いもんでさァ。
(ドンッ)
オイラ、どっからどうみてもこの小拍子と、着物が欠かせねぇ商いをやらしておりますんで、高座に降りて、家に帰った時にゃあ、真っ先に半襦袢やらなんやらを洗濯する訳ですよ。
それでね、半襦袢てのは、干す時に普通のハンガーじゃぁなくて、専用のハンガーを使うんです。だけども、そいつを買って、もう何年も経った訳ですがいよいよガタが来ちまった。そろそろ新しいハンガーを新調しようかねぇ、なんて思いまして、そこのショッピングモールに入ってる呉服屋さんに、出向いたわけですよ。
そしたら、気前よく接客をして下さりました。そんでもって呉服屋さんは、
何にお使いですか?
お察しの通り……職業は何かと探りを入れてきたのです。付け加え、
巫女服とか……?
と聞いてきたのですが、オイラァ、巫女なぞ似合わんぞと思いまして、顔を赤らめました。
え?笑ってんじゃないよ、そこの煙草屋のおっとう。オイラが巫女だァ???おかしな話だねぇ本当に。いくら、女流つっても花のねぇ噺家やらしてもらってますからね、それはもう、驚きましたよ。えぇ。
そんでもって、この噺、まだ終わりじゃねぇんです。
おいらの姉妹弟子、へのへのもへじがですね、同日に呉服屋さんに行ったんだそうで。
へのへのもへじも、おいらと同じくハンガーを求めに敷居を跨いだんですがね……
もし、何にお使いになさるんです?浴衣?祭りでもあるんですか?
……へぇ違ぇます。
ん?じゃあ、、、何を?ええっと、お客さん、高校生ですよね?
いえ、違ぇます。商売道具を……
商売道具?!
てな具合に、年齢まで勘違いされたってんだから調子狂っちまう。……この差は何だい?嘘見てぇな噺かとは思いますが、こら、本当の噺。オイラがここで噺してんのは全部実話でぇい。
(ドンッ)
まぁ、巫女だなんだ騒ぎましたが、実はこう見えても学生の時はぁ巫女服に袖を通して、御守りを需要したり、歌を奏上したりしましたけどね。ええ。今もその時買わされた巫女服が田舎に眠ってますよ。
笑ってんじゃないよぉ!ほんとでぇい。今度着物じゃなくて、巫女服で高座上がってやろか?え?
(ドンッ)
どういう訳か、世間様の波に乗ることも無く、今じゃこんな商売やらして頂いております。昔っから残っているものの、今じゃ後継人が少ないだとか色々と言われておりますけども、これからもこの着物に袖を通して口座に上がって行く次第ですので、どうぞご贔屓、ご鞭撻の程、よろしくおねげぇします。
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